ビジネスと技術の視点で振り返る「成功」と「失速」
2016年は「VR元年」と呼ばれた年。
Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VRといった主要なVR機器が発売され、世界中でVRへの期待が一気に高まりました。
日本でも同じ流れが起き、“VRを気軽に体験できる場所”として脚光を浴びたのが「ネットカフェ」です。
この記事では、
✅ 当時ネットカフェで何が盛り上がったのか
✅ なぜ注目され、どう発展し、なぜ縮小したのか
✅ 現在のVRビジネスにどう繋がったのか
を、ビジネス・技術の両方の観点で解説します。
Contents
■ ネットカフェが「VRの入口」になった理由
2016年当時、VR機材は高価で、自宅導入は簡単ではありませんでした。
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PC版VR:数十万円クラス
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スマホVRも専用端末が必要
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一般人はそもそも触ったことがない
そこへ登場したのが、全国のネットカフェで使える
「VR THEATER」と呼ばれる映像視聴サービスです。
「VR THEATERは、VR映像コンテンツを全国のコミックカフェやカラオケ施設で体験できるサービス。2016年4月から導入を開始し、同年末までに129店舗へ拡大」(引用:日本複合カフェ協会)
当時人気を集めたVRコンテンツは、
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進撃の巨人展360°体感シアター「哮」
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攻殻機動隊 新劇場版 Virtual Reality Diver
(600円ほどで体験できた)
大げさな準備なしで、「VRってどんな感じ?」が体験できる場所になったのです。
■ 2016〜2018:一気に普及したネットカフェVR
大手チェーンも積極的に参入しました。
✅ 自遊空間(NEXT蒲田店)
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HTC Vive や Gear VRを導入
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「40台以上のVR機材」と発表(2016)
✅ 快活CLUB
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Gear VR → さらに高級機「FOVE」を150店舗へ導入(2017〜2018)
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VR見放題プランを提供した時期も
✅ VR THEATERは全国129店舗へ
「配信は2016年、全国129店舗まで拡大」(引用:Mogura VR)
「とりあえずネットカフェ行けばVRできる」という空気が生まれました。
まさにVR入門の入り口として機能した時期です。
■ しかし、ブームは長続きしなかった
ネットカフェVRは全国に広がったものの、
2019年以降、急速に縮小していきます。
その理由をビジネス面・技術面から整理すると、次の通り。
【ビジネス面の失速理由】
● ① リピーターになりづらい
多くのコンテンツが「短い映像作品」。
一度見たら満足してしまう人が多い。
店舗側は新作を投入し続けないといけない → コスト増。
● ② 機材・運営が大変
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HMDの清掃・消毒
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紛失・破損リスク
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装着サポートが必要
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専用席や個室の確保
安い体験料金では回収が難しく、
収益構造が合わなかったと言えます。
● ③ 新型コロナで完全に止まる
2020年に共有HMDへの心理的抵抗が増加。
VRサービスを休止 → そのまま再開しない店舗が続出。
【技術面の失速理由】
● ① Gear VRは没入感が弱かった
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画質が粗い
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酔いやすい
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ケーブルなしの手軽さの反面、物足りない
● ② ハイエンドVRはスペースが必要
ルームスケール(部屋を歩き回る)体験は
ネットカフェの小さなブースと相性が悪い。
● ③ 家庭向けVRが進化してしまった
2018以降、スタンドアロンVRが登場。
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Oculus Go
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Oculus Quest
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Meta Quest 2
数万円で「家で好きなだけVR」ができる時代に。
わざわざネットカフェで借りる必要が薄れました。
■ 実際にどうなった? → サービス終了が相次ぐ
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VR THEATER:終了
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VIRTUAL GATE:2024年終了
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快活CLUB:VRサービス全店終了
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自遊空間など:公式サイトからVR記述が消える
一時は全国600店以上で体験できたネットカフェVRは、
現在はほぼ消滅しました。
■ では「失敗」だったのか?
結論は、NOです。
ネットカフェVRが残したものは大きい。
✅ 【① VR普及の入口になった】
「VRってこういうもの」が伝わった
↓
その後、家庭用HMDの購入者が増える
いまVRを使っているユーザーの中には、
最初の体験がネットカフェだった人は多いはず。
✅ 【② コンテンツ制作・配信のノウハウが生まれた】
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多店舗でのレンタル管理
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決済・配信・著作権管理
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VR映像の収益化モデル
これらは現在のメタバース事業や
VRイベント配信に繋がっている。
✅ 【③ ロケーションVRの方向性を示した】
ネットカフェVRの学びによって、
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テーマパーク系VR
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eスポーツ&VR
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VR・メタバースカフェ
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VRフィットネス
など、特化型の店舗ビジネスが生まれた。
■ 現在(2025年)の状況
✅ ネットカフェでのVR貸出 → ほぼ消滅
✅ VRは「家庭の娯楽」「メタバース」「仕事」の時代へ
✅ ネットカフェはテレワーク・宿泊へシフト
ネットカフェVRは終わったけれど、
その役割は確かにあった、と言えます。
■ まとめ
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観点 |
結果 |
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当時の目的 |
VRを一般層に届ける入口作り |
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得られたもの |
VR普及、制作/配信ノウハウ |
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なぜ縮小? |
コスト高、リピーター不足、コロナ、家庭用進化 |
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現在の価値 |
メタバース、VRビジネスの土台を作った |
ネットカフェVRは、VR黎明期の実験場だった。
そしてその経験が、今のVR市場の成長につながっている――それが結論です。
■ 引用・参考元(リンク原文のまま記載)
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Mogura VR
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VR THEATER プレスリリース
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PANORA VR
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週刊アスキー
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自遊空間・快活CLUB公式情報
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ププルインターナショナル VRレンタル紹介
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App-Liv 2016年記事
※記事中の引用部分は公開情報および各社公式リリースに基づくものです。