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Apple Immersive Video向け台本なし(Unscripted)コンテンツ制作の教訓:シンプルさの力
【WWDC 2025レポート】制御不能な環境で「記憶に残る体験」を作る
Apple Immersive Video (AIV) は、ハリウッドのスタジオセットだけでなく、[00:44] 規制が少なく、予測不能な自然環境(unscripted environment)でも撮影されます。AIVのクリエイティブ・ディレクターであるフランス・ドゥ・フランス氏は、台本なしのドキュメンタリー制作を通じて、AIVの制作における「シンプルさの力」と、観客に「単なる映像ではなく記憶」として体験させるための教訓を共有しました。
本記事では、彼らが『Wildlife』シリーズなどの制作で学んだ、簡素な機材と意図的なデザインがもたらす没入体験への影響を解説します。
1. 簡素な機材と「視聴者=カメラ」の原則
(1) 三脚の重要性と注意点
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シンプルなセットアップ: [02:16] 撮影チームは非常に軽装で、主要なツールは三脚でした。AIVでは、シンプルであることの中に力と美しさがあるという原則があります。
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三脚の映り込み: [02:27] AIVカメラは人間の目を模倣しており、上下左右に広くキャプチャします。そのため、三脚の脚がレンズに向かないように、バッテリーパック側に向けるなど、細心の注意が必要です。
(2) 視聴者駆動の体験
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カメラは「視聴者」:[03:13] AIVのカメラは、まるで2つの目を持つ愛らしい壁のように見えますが、実質的に「視聴者」そのものです。
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視聴者のチルト・パン・ズーム: [03:36] AIVカメラには交換可能なレンズやラックフォーカス機能はありませんが、視聴者は頭や目を動かすだけで、自分でチルト、パン、または「ラックフォーカス」(視線の移動)を行うことができます。
2. カメラ配置:距離と高さの意図的な選択
[04:27] カメラは視聴者をどこに配置するかを意図的に決定するものであり、配置には明確な意図が必要です。
(1) 快適な距離感
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快適な距離: [04:43] 被写体から約6フィート(約1.8メートル)離れた距離が、快適に被写体に近づける距離とされています。
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親密な距離: [04:52] 約4フィート(約1.2メートル)離れると、より親密な感覚が得られます。
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例外(意図的なルール破り): [06:24] 意図的であればルールを破ることも可能です。例えば、サイを至近距離で撮影したショットは、一時的にすべてのルールを破っていても、視聴者に強い印象を与え、人気となりました。
(2) カメラの高さ
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標準的な高さ: [05:33] 通常、三脚の高さは、ほとんどの人間の鎖骨の高さである50〜60インチ(約127〜152cm)に設定されます。
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感情のガイド: [05:41] カメラの高さを変えることで、視聴者に深い雪に沈む感覚や、キャラクターと全く同じ高さにいる感覚など、特定の感情を抱かせることができます。
(3) フレーム内の課題への対処
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構造物の回避: [07:06] 熱気球のバスケットなど、動かせない構造物がフレームのエッジにかかることがあります。これはステレオ感(立体感)を損なうリスクがあるため、ショットに留まる時間を短くするか、[07:33] パイロットの顔やバーナーの炎など、他の明確な要素に視聴者の注意を引くことで対応します。
3. 視聴者のガイドと没入感を高める要素
台本のない環境では、画面上の被写体を「演出」するよりも、視聴者を演出することに重点が置かれます。[09:41]
(1) 動きの意図的な使用
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有機的な動き: [07:44] カメラの動きを試す際は、人間の動きと同じように有機的であることを目指します。
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安定性と方向: [08:19] 動きのスピード、方向、安定性に留意することが、不快感の回避に不可欠です。
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ケーブルカムの活用: [08:54] 野生動物を怖がらせずに動物に近づくために、ケーブルカムを自作し、オランウータンが木を登る様子を追跡するなどのショットを撮影しました。
(2) 空間オーディオの力
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最高のスーパーパワー: [11:17] 空間オーディオは、AIVの最大のスーパーパワーの一つです。
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視聴者の注視点の誘導: [12:13] 音は視聴者に「そこを見るように」仕向ける役割を果たします。海や風、カモメの音が正確な距離で聞こえることで、視聴者の目線を誘導し、[12:22] その要素をカットポイントとして使用することで、有機的でシネマティックなトランジションを作成できます。
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親密さの演出: [12:48] 飼育員が象に口笛を吹く瞬間など、音は親密なシーンや真正性の瞬間を作り出すのに最適です。
(3) 「瞬間」を捉える
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没入型の瞬間: [16:13] 従来の物語構成の「幕」や「シーン」とは異なり、AIVのユニークな点は「瞬間(Moment)」にあります。フリッパー(フリーダイバー)が氷の下で世界記録に挑む瞬間など、[16:22] 感情に任せて何も強制せず、視聴者がただ浸り、鑑賞する瞬間を作り出します。
(4) ガイドとしてのキャラクターの重要性
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キャスティングの鍵: [14:30] AIVでは、キャラクターが視聴者のガイドとなります。キャスティングは非常に重要です。
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真正性: [14:40] 全身が映るため、緊張しているときの足の痙攣など、役者のあらゆるディテールが視聴者の目に留まります。[14:47] カメラの前で快適で、魅力的なキャラクターであるために、強固な信頼関係を築く必要があります。
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指示の削減: [15:12] 伝統的なドキュメンタリーよりもキャラクターへの演出を減らし、カットも少ないため、長時間一緒にいたいと思えるようなキャラクターを選ぶ必要があります。
スピーカー情報
このセッションは、**France de France(フランス・ドゥ・フランス)**によって講演されました。
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肩書: Apple イマーシブメディアチーム クリエイティブ・ディレクター
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出典: The power of simplicity: Lessons from unscripted Apple Immersive titles [00:07]