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Apple Immersive Video向けライブイベント撮影:Metallica事例に学ぶ制作術
【WWDC 2025レポート】VOD/Live to Tapeにおけるアクセスの確保とカメラ配置戦略
ライブイベントの撮影は、その瞬間の熱気、リズム、予測不可能性を捉える点で、最も没入的な体験の一つです。[00:46] Apple Immersive Video(AIV)でライブイベント(VOD/Live to Tape)を成功させる鍵は、従来の撮影手法を打ち破り、いかにアクションの「内側」にカメラを置くか、すなわち「アクセス」を確保することにあります。
本記事では、Appleのイマーシブメディアチームが、バンド「Metallica」のコンサート撮影を通じて得た、ライブイベント撮影における主要な教訓と戦略を解説します。
1. アクセスの確保:すべてはここから始まる
ライブイベントの没入型撮影の最大の課題は、カメラを物理的にアクションに近づける「アクセス」を確保することです。[03:34] 従来の撮影場所(カメラピットや観客席後方)では、AIVが目指す「そこにいる感覚(Presence)」は得られません。
(1) 従来の壁を破る
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従来の常識: [03:03] 従来のライブ撮影では、会場の隅にカメラが置かれ、超望遠レンズでクローズアップを狙うのが一般的でした。
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AIVの必要性: [03:17] AIVでは、超望遠レンズでは得られない、近接性(Proximity)と没入感が不可欠です。
(2) 地道な交渉とデモの力
Metallicaの撮影成功は、地道な「地ならし」から始まりました。[04:03]
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クリエイティブチームの訪問: Appleのクリエイティブチームはバンドに直接会いに行き、AIVのデモ、コンセプト、アイデアを共有しました。
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共通の目標: [04:21] バンドは、AIVがファンに「アーティストと観客の間の壁を崩す」という新しい体験を提供できる可能性を直ちに理解し、[04:30] AIV制作への全面的なアクセスを提供しました。
2. ステージの解剖と綿密なプリプロダクション
アクセスを得た上で、その配置を最大限に活かすためには、ステージの構造とパフォーマーの動きを詳細に分析する必要がありました。
(1) ステージレイアウトの学習
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[04:51] ステージアーキテクチャ: Metallicaのステージは円形であり、中央に「スネークピット」(Snake Pit)と呼ばれる観客エリアがバンドを囲むように配置されていました。チームは、[05:09] バンドから提供された図面や、従来の2D撮影の配置情報をもとに、体験の「アーキテクチャ」を徹底的に学びました。
(2) パフォーマーの動きのマッピング
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[05:33] 30公演の分析: 最高の瞬間を逃さないよう、チームはツアーの30公演以上を視聴し、**バンドメンバーの動き(ムーブメント)**をマッピングしました。これにより、各メンバーがどのタイミングでどこに現れ、どのマジックが起こるかを予測しました。
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[05:46] 既存カメラの活用: Spider Camなどの既存カメラのISOフィードも分析し、空中カメラの最適な位置を決定しました。
(3) Vision Proによるプレビズ
[05:58] 動きのモデルをVision Proに取り込み、カメラの速度、位置、動きがもたらす物理的な影響(不快感など)を没入空間でテストしました。
3. カメラ配置と機材:エネルギーに合わせた選択
最終的に、14台のカメラがステージ周辺に配置されました。[06:15] 各カメラは、単に「良いアングル」のためではなく、明確な意図をもって選ばれました。
(1) 配置戦略の意図
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[06:23] 近接性: 主要なバンドメンバーとの物理的な近さ。
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ファンエネルギーゾーン: 観客の熱狂が最も高いエリア。
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ムーブメントパス: バンドメンバーが動く経路。
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[02:10] 事例:
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ラーズ(ドラム)の前: 観客席の最前列よりも近くにカメラを設置し、ラーズのエネルギーと勢いをキャプチャ。
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カーク(ギター)との共演: ステージ上でカークがソロを演奏する瞬間を一緒に体験。
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入場シーン: [02:16] ジェームズ(ボーカル)がセキュリティとともにバリケード内をファンと肩を並べて歩く瞬間をキャプチャ。
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(2) 機材とパフォーマンスの一致
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安定化の重要性: [07:16] ロックコンサートという激しい環境に対応するため、すべてのカメラ(Tiffen Volt 3システムを搭載したステディカムなど)は安定化されました。
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[07:43] Spider Cam(スパイダーカム): ステージ上空からのユニークな視点、ダイナミックなトランジション、および従来のリグでは不可能な角度を可能にしました。
(3) ライブディレクション
[06:56] 14台のカメラによる撮影はVOD(ビデオ・オン・デマンド)でしたが、ショーの進行に合わせてリアルタイムでディレクションされました。これは、チームが行った過去最大のマルチカメラコンサート撮影でした。
4. 結論:没入感とは「生きる」こと
[08:15] 真に没入的なキャプチャを実現するには、「アクセス」から始まり、ステージのマッピング、動きの分析、3Dプレビズによるカメラプランの確定、そして環境のエネルギーに合わせた機材の選択が必要です。
没入型メディアは単に物語を「語る」だけでなく、[08:46] その瞬間を「生きる」体験を提供します。
スピーカー情報
このセッションは、**Ivan Serrano(イヴァン・セラーノ)**によって講演されました。
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肩書: Apple イマーシブメディアチーム テクニカルディレクター
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出典: Capturing live events for Apple Immersive Video [00:07]