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Apple Immersive Video 制作の期待値:「Submerged」の事例に学ぶプロダクションの課題
【WWDC 2025レポート】スクリプト作品の制作で明らかになった2Dとの違い
Apple初のスクリプト作品「Submerged」(潜水艦を舞台にした17分間のドラマ)の制作は、没入型コンテンツのプロダクションにおける多くの「初めて」を経験する機会となりました。[01:47] プロデューサーの視点から見ると、従来の2D映画制作と大きく異なるのは、予算や撮影スケジュールよりも、リソースの配分と時間の使い方、つまり「どのように(How)」実行するかという点でした。
本記事では、「Submerged」の制作を通じて得られた、没入型プロダクションにおける開発、セットデザイン、人材配置に関する重要な教訓を解説します。
1. 開発とプリプロダクション:時間とリソースの重点配分
従来のプロダクションプロセス(開発→プリプロダクション→プロダクション→ポストプロダクション)の中で、[04:12] 没入型では特に開発とプリプロダクションの段階で、より多くの時間とリソースを割く必要があることが判明しました。
(1) クルーの習熟とカメラテスト
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クルーのトレーニング: 新しい技術に慣れるためのカメラワークショップとテストに十分な時間を確保することが必須でした。[04:24]
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Vision Proの習熟: 撮影現場での貴重な時間を浪費しないために、[04:32] クルー全員が事前にVision Proでのレビュー方法の基礎を習得するためのデモを実施しました。
(2) プレビズ(Previs)の重要性
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環境設計への応用: [04:52] プレビズは、カメラ位置や役者のブロッキングだけでなく、潜水艦のセットをどのように構築するかを理解するために不可欠でした。
2. セットデザインとライティング:ディテールと広角への対応
没入型カメラは人間の目を模倣しているため、その「アキュイティ」(鮮明度)と広い視野角(広角)は、セットデザインとライティングの方法に大きな影響を与えました。
(1) セットサイズの課題
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近接による不快感: [05:36] 時代考証に基づいた潜水艦の原寸大のセットサイズは、没入型カメラの広角では壁との距離が近すぎ、視聴者に不快感(モーションディスコンフォート)を与える可能性があることが判明しました。
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事前テストの必要性: [05:51] このような問題を避けるためにも、実物大のモックアップやカメラテストが重要でした。
(2) ディテールと真正性(Authenticity)
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全てがリアルである必要性: [05:58] 没入型カメラの高い鮮明度は、セット内のあらゆる不自然なディテール(例: 本物ではない素材の文字盤など)を拾ってしまいます。小道具やセットのディテールにも、より多くの時間とリソースが必要でした。[06:24]
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メイクアップの課題: [08:24] 刺青などのメイクアップでさえ、カメラテストの結果、2Dモニターでは問題なくても、没入型では「本物らしくない」と判断され、作り直しが必要でした。
(3) ライティングとVFXコストの削減
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セットへの組み込み: [06:32] カメラの180度の視野には、セット外の照明機材が容易に映り込んでしまいます。これを避けるため、可能な限り多くの照明をセット内(例: 潜水艦内のライト)に組み込みました。
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ポスト処理コスト: [06:50] 映り込んだ機材をポストプロダクションで除去(クリーンアップ)する作業は、AIVの高解像度と高フレームレートのため、非常に高コストになります。セット内照明を増やすことは、VFXクリーンアップコストの削減にもつながりました。
3. 現場でのレビューと人材配置
(1) Vision Proでのレビューの必須化
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2Dモニターの限界: [09:18] 従来の2Dモニターで映像を確認しても、AIVのフッテージを正確に評価することはできません。プロダクション中にショットを真に評価できるのは、Apple Vision Proでのレビューのみでした。[08:55]
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多数のデバイスの配備: 迅速なレビューのために複数のVision Proデバイスを現場に配備し、[09:34] クルー全員が基本的な操作(ナビゲーション)方法を理解しておく必要がありました。
(2) 新しい役職「Vision Pro Manager」
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[09:53] デバイスの管理: 多数のVision Proを清潔に保ち、充電し、誰もが使える状態に維持することは、日々のスケジュールの中で追加のタスクとなりました。このため、Vision Pro Managerという専任の担当者を配置することが不可欠でした。
(3) 異種カメラシステムの統合
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異なるワークフロー: [10:15] 世界等倍(1:1ワールドスケール)ではないショット(例: 浅い被写界深度のクローズアップ)を撮影するために、従来のシネマティック3Dリグなど、別のカメラシステムを使用しました。
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制作への影響: [10:44] これらの追加のカメラシステムは、デイリーのプロセスやポストプロダクションで別個のチームとワークフローを必要とし、メインの没入型プロダクションワークフローにシームレスに統合できませんでした。
4. プロダクション成功への教訓
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十分な準備期間: [11:07] 新しい技術とプロダクションの期待値に対応するため、自分たち自身とクルーに十分な準備期間を費やしてください。
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既存の知識の応用: [11:09] 新しい技術を従来のプロダクションに統合する方法をオープンマインドで学んでください。
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業界への貢献: [11:24] 共同での経験を通じて、お互いに成功的な没入型プロジェクトを制作する手助けができます。
スピーカー情報
このセッションは、**Alex(アレックス)**によって講演されました。
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肩書: Apple イマーシブプロジェクト プロデューサー
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出典: Production expectations for Apple Immersive Video: Learnings from "Submerged" [00:13]