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Apple Immersive Video向けプリビジュアライゼーション:The Weeknd「Open Hearts」に学ぶ制作術
【WWDC 2025レポート】新規フォーマットにおけるプレビズの重要性
ミュージックビデオの監督として10年のキャリアを持つアントン・タミー氏にとって、The Weekndの「Open Hearts」は初のApple Immersive Video (AIV) 監督作品でした。[01:02] 新しい没入型フォーマットは、従来の映画制作の知見が通用しない領域であり、特にAリストの才能と仕事をする場合、[03:24] 撮影前にすべてを完璧に計画する必要がありました。
本記事では、「Open Hearts」の制作を通じて得られた、没入型プリビジュアライゼーション(プレビズ)のメリットと、制作における具体的な学習ポイントを解説します。
1. プリビズ(Previs)が必要な理由
監督は、従来の2D絵コンテでは解決できない、2つの大きな課題に直面しました。
(1) 未知のフォーマットへの対応
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没入型の疑問: 没入型カメラは救急車の中に入るのか? 車の動きはどの程度の速さまで視聴者を不快にさせないか? 没入型での「フレーミング」はどうあるべきか? [02:51]
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テストの必要性: [03:51] 撮影現場でテスト撮影やリハーサルをする時間がないため、アイデアを試すための仮想環境が必要でした。
(2) コミュニケーションツールとしての必要性
[03:38] 監督自身も経験がない中、グローバルスーパースターであるThe Weekndや、没入型フォーマットに慣れていない撮影チーム全員に、最終的な映像を言葉だけで説明するのは不可能でした。
没入型プレビズとは
[04:17] プレビズ(プリビジュアライゼーション)は、完成作品をCGアニメーションで表現したものです。BlenderやUnreal Engineなどのツールで作成し、[05:01] 脚本全体を没入型アニメーションのセットに変換できます。
2. プレビズで得られた具体的な知見
監督は、Unreal Engineでカスタムカメラリグを作成し、ステレオスコピック(立体視)バージョンをエクスポートすることで、アイデアを迅速かつ安価にテストしました。[05:41]
(1) 没入型では通用しない撮影技術
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ごまかしの排除: [06:18] 視聴者は180度の半球を見ているため、従来の映画のようにごまかすことはできません。すべてがシャープかつ詳細に見えます。
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浅い被写界深度(Depth of Field)の欠如: 没入型では基本的に被写界深度がなく、すべてが非常にシャープです。[06:25]
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カメラの動き: [07:44] 180度のローリングカメラムーブ(カメラを横に回転させる動き)を試したところ、[07:51] 非常に不快で、ほとんど椅子から落ちそうになる感覚を覚えました。
(2) 快適な近接距離の確認
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不快な近さ: [06:42] オブジェクトがカメラに近すぎると、視聴者は非常に不快になります。
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安全な距離の視覚化: [06:52] プレビズに赤い球体を追加し、これが快適な近接距離の最小値を定義するバリアとして機能するように設定しました。これにより、理想的なフレーミングが技術的に問題ないかを瞬時に確認できました。
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空間の広さ: [07:20] タイトなスポーツカーの中よりも、救急車の後部座席のような部屋のようなスペースのほうが、没入型では自然に感じられます。狭い空間は閉所恐怖症を引き起こす可能性があります。
(3) 効果的なカメラワークの発見
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前進移動: [08:26] 廊下などの空間の中心にカメラを配置し、ゆっくりと前進させる移動は、才能の後ろを歩いているような感覚を生み出し、非常に効果的です。
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スピード感の演出: [08:51] 非常に速い動きをキャプチャしたい場合でも、[09:05] 車のボンネットなど地面に固定されたものをフレーム内に映し込むことで、視覚的に安定させ、不快感を軽減しつつ、スピード感を得られることを発見しました。
(4) クリエイティブな拡張
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アイデアの実現: [09:47] プレビズワークフローは、新しいアイデアを試す機会を提供しました。例えば、[10:05] 「運転中に道路が上向きに曲がる」という複雑なVFXショットをプレビズで試すことで、撮影前にVision Proでの効果を証明できました。
3. プレビズ後の成功へのステップ
プレビズの完了は、本撮影の成功を大きく左右しました。
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タレントの承認: [10:58] 完成版に近い映像をThe Weeknd本人に見せ、彼の承認とコメントを得ました。
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チームの教育: [11:05] 撮影監督とそのチームにプレビズを見せることで、[11:36] セットデザイン、照明、カメラの動きのコントロール方法など、全員が映画がどうあるべきかを理解できました。
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自信の獲得: [12:49] 監督は、メジャーアーティストがセットに足を踏み入れたとき、完全に準備ができているという自信を持つことができました。
結論
[12:22] 没入型映画制作は、従来の映画制作と比べて「はるかに難しく、高価」というわけではありませんが、プリプロダクションにより多くの時間と労力を費やし、より慎重に準備する必要があります。没入型プレビズは、言葉では説明できないことを可視化し、チーム全体を一枚岩にするための完璧なコミュニケーションツールでした。
スピーカー情報
このセッションは、Anton Tammi(アントン・タミー)によって講演されました。
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肩書: 映画監督(The Weeknd「Open Hearts」監督)
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出典: Previsualization for Apple Immersive: Learnings from “Open Hearts” by The Weeknd [00:07]