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【WWDC 2025レポート】モノラル、空間マイク、そしてバイノーラルミックスの重要性

Apple Immersive Video向け空間オーディオ制作ワークフロー:没入感を高める音響設計

【WWDC 2025レポート】モノラル、空間マイク、そしてバイノーラルミックスの重要性

映像制作において、オーディオは通常、あまり注目されない要素ですが、没入型メディアにおいては、[02:09] 空間オーディオは観客を物語の世界に引き込む最高の手段です。従来のステレオや5.1chとは異なり、空間オーディオはヘッドフォンだけでも聴衆をシーンの中に配置する力を持ちます。

本記事では、Apple Immersive Videoのポストプロダクションチームが採用する、空間オーディオ制作のワークフローを、3つの主要ステップに分けて解説します。


1. 収音(Acquisition):モノラルと空間の二刀流

現場での録音(収音)では、モノラル音源と空間音源の両方を録音することが重要です。

(1) 空間音源の録音

  • 目的: [03:22] カメラの視点に合わせたアンビソニックス空間オーディオを録音することで、音響環境全体をキャプチャし、空間的な接着剤(Spatial Glue)として機能させることです。

  • 機材: [04:33] 大きなマイクアレイでなくても、通常のショットガンマイクと類似したフォームファクターの、優れたアンビソニックスマイクが市場には多数存在します。

  • 活用例: [03:46] 『Apple Immersive Wildlife』シリーズでは、ほとんどすべてのショットで録音された空間オーディオが使用されています。

(2) モノラル音源の録音(重要)

  • 空間音源の限界: [05:07] 空間オーディオだけでは、必要な明瞭度やディテールが得られないことがあります。

  • モノラル録音の必要性: [05:20] 空間録音を補強(オーグメント)するために、従来のモノラル収録技術を引き続き使用します。

    • [05:28] **台詞(Dialogue)**は、明瞭度とディテールを確保するため、個別のクローズモノラル音源として録音する必要があります。

    • [05:35] 広い画角のため、ブームマイクをフレームの外に隠すのが難しいことが多いため、**ラベリアマイク(ピンマイク)**の使用を優先します。

  • 効果: モノラル音源が豊かな定義とディテールを提供し、空間録音が音響的な奥行きと遠近感を補います。


2. サウンド編集(Sound Editorial):ディテールで没入感を構築

この段階では、ダイアログ、効果音、音楽などのすべてのサウンド要素を集め、重ね合わせていきます。

制作環境

  • 柔軟な選択肢: [06:16] 映像編集にDaVinci Resolveを使用している場合は、同じエコシステム内のFairlightタブに切り替えて作業できます。

  • Pro Toolsユーザー: [06:45] Apple Spatial Audioプラグインスイートをダウンロードして使用することで、Pro Tools内でも直接ASAF形式の編集とミックスが可能です。

没入感を高めるディテールの追加

  • フォーリー(Foley)の活用: [07:41] 観客の没入感は、ディテールの中に宿ります。足音、衣服の擦れる音、小道具の音など、日常の些細な音をライブで映像に合わせて録音・追加します。

  • アンビエンス(Ambiences)の利用: [09:01] フォーリーとアンビエンスを重ねることで、シーンに厚みとリアルさが加わり、観客をより深く世界に引き込みます。


3. 空間ミックス(Spatial Mix):視覚に音を固定する

空間ミックスは、すべての音響要素を結合し、最も重要な**空間化(Spatialize)**を行う段階です。[10:07] ここで従来の2Dワークフローから大きく逸脱します。

(1) センタリングの概念を捨てる

  • 従来の課題: [10:16] 従来の2Dワークフローでは、音の多くが「センターチャンネル」(スクリーン背後)に配置されることで、映像に音を固定していました。

  • 没入型の原則: [10:35] 観客はフラットスクリーンを見ているのではなく、シーンの中にいるため、センタリングの概念は存在しません。[10:43] 音は、対応する視覚要素(ビジュアル)の位置から発せられるように期待されます。

  • 実践: [10:50] すべての音源を、画面内の対応する視覚要素の位置に**アンカー(固定)**させます。これは、[11:11] 360度全体にアンビエントオブジェクトを配置し、映像の動きに合わせて音源の位置を同期させることを意味します。

(2) バイノーラル(Binaural)でのミックス

  • 視聴環境の理解: [12:26] 観客はヘッドフォン、またはVision Pro内蔵のスピーカー(バイノーラルオーディオ)を通してミックスを体験します。

  • 習慣の変更: [12:33] 自分のミックスが正確に伝わるように、スピーカーだけでなく、必ずプロフェッショナルなヘッドフォンでミックスを行うようにします。これは、遠近感だけでなく、ダイナミックレンジを正確に把握するために重要です。

  • デバイスでの確認: [12:54] 距離、遠近感、音の定位を正確に判断するために、定期的にApple Vision Pro実機でミックスをレビューします。

まとめ:成功のためのチェックリスト

  1. 現場でモノラルと空間の両方を録音する。[13:17]

  2. 空間録音の上にフォーリーとアンビエンスを重ね、没入感を高める。[13:20]

  3. 音源を画面中央ではなく、視覚要素にアンカーさせる。[13:25]

  4. ヘッドフォンでミックスし、Apple Vision Proでレビューする。[13:29]


スピーカー情報

このセッションは、**Alex Weiss(アレックス・ワイス)**によって講演されました。

  • 肩書: Apple Immersive Video ポストプロダクションチーム オーディオリード

  • 出典: Spatial Audio workflows for Apple Immersive Video [00:14]

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