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【WWDC 2025レポート】Vision OSで観客を魅了する物語の設計思想

Vision Pro向け体験デザインの羅針盤:没入感、インタラクション、空間インターフェースのベストプラクティス

Vision Proにおけるストーリーテリングは、観客を文字通り物語の中に引き込みます。[01:04] 映画の黎明期、リュミエール兄弟の列車映像に観客が奥行きと現実感を感じて魅了されたように、新しい媒体は常に観客に新たなインパクトを与えます。

本記事では、visionOS向けのメディアアプリ、ゲーム、体験を設計するためのベストプラクティスとデザインの基礎を、以下の4つの柱に沿って解説します。


1. 没入感(Immersion)をストーリーテリングの「ツール」として使う

visionOSでは、没入感は固定された設定ではなく、ストーリーを語るためのツールです [02:54]。観客の**自主性(Agency)**を奪うことなく、没入感を変化させることで、物語を強調することができます [03:32]。

没入感を変える3つの主要パターン

  1. フォーカス(集中): [04:47] 観客の注意を特定のコンテンツに向けるために使用されます。

    • 例: Vimeoアプリでの動画再生時に、パススルーフィードを暗くする(Dim)ことで、視聴者の目をビデオに引きつけます。

    • 例: D-Day: The Camera Soldier (Targo) では、過去の遺物を探索する際に、シーン全体を暗い没入空間に移行させ、オブジェクトへの集中を促します [05:34]。

  2. トランスポーテーション(移動): [06:08] 観客を物理的な場所から別の世界へ運びます。

    • 例: Rewild (Foria) は、地球のモデルの上でビデオ再生を始め、視聴者が海中世界へダイブするにつれて、没入コンテンツを部屋の周囲にブレンドさせ、世界が観客の部屋に入ってくる感覚を提供します [06:41]。

  3. ナラティブ(物語): [07:57] 物語の進行や感情の起伏に合わせて没入レベルを変化させます。

    • 例: Encounter Dinosaursは、最初に蝶を登場させて観客を慣れさせ、徐々に大きな先史時代の生き物へと移行させることで、物語の緊張感を高めます [08:49]。

    • 例: D-Dayでは、主人公が父の過去に深く入り込むにつれて、16:9の3Dビデオから180度の没入型ビデオへ、そして戦場の3D空間へと没入レベルが飛躍的に高まります [09:42]。

デザインのベストプラクティス

  • 親しみやすい場所から始める: [10:53] メディアアプリではウィンドウやボリュームから始め、観客が周囲との接続を保ちながらナビゲーションできるようにします。

  • 集中を保つ: [11:26] 機能やUIが多すぎると、観客の気が散ります。コンテンツの視聴中はブラウジングウィンドウを隠すなど、[11:39] コアのストーリーに集中させます。

  • 滑らかなトランジション: [12:07] 没入度の変化は、スムーズな遷移で行います。ゆっくりとしたフェードや、[12:26] Encounter Dinosaursのように、蝶が飛び去ってポータルが開くといったアニメーションを活用します。


2. インタラクション(Interaction)の意義と設計

Vision Proでは、受動的な体験でさえ、観客は常に視点を動かしたり、環境音を聞いたりするため、何らかの形でインタラクティブです [16:09]。しかし、体験をさらに豊かにするために、いつ、なぜインタラクションを追加するかが重要です [19:12]。

インタラクションの分類

  1. パッシブ(受動的): [15:48] 環境に存在するだけで、ユーザーの行動によって物語は変化しません(例: Halakala環境を眺める)。

  2. 限定的(Limited): [16:45] 物語の重要な瞬間に一時的に影響を与えます(例: D-Dayで遺物を調べる、Jupiter環境で時刻を変更する)。

    • 隠されたインタラクション: [17:20] 必須ではないが、楽しさを増すインタラクション(例: Halakala環境で山に向かって叫ぶとエコーが返ってくる [17:48])。

  3. アクティブ(能動的): [18:34] 観客の行動が、物語、キャラクター、結末に影響を与えます(例: Encounter Dinosaurs)。

インタラクションを追加する際の問いかけ

クリエイターは、以下の問いに答えることで、インタラクティブな瞬間が物語に貢献しているかを確認できます [19:25]。

  • その瞬間は意義深いか?: 観客を体験の一部にしているか?

  • 隠された要素を明らかにしているか?: 見るだけでは学べない、ストーリーの要素が明らかになるか? [19:40]

  • 物語を進行させているか?: 物語の妨げになっていないか?

快適なインタラクションの設計

  • ポジショニング: [22:10] ほとんどのユーザーは着席しているため、コンテンツは視界の中心、適切な高さに配置します。

    • 間接操作: ウィンドウベースの体験では、[22:30] コンテンツが手の届かない場所にある場合、ユーザーは間接的な操作(目線とタップ)を好みます。

    • 直接操作: 物理的なインタラクション(掴む、動かす)を促したい場合は、コンテンツを手の届く範囲(アームズリーチ)に配置する必要があります [22:45]。繰り返しの動作を要求する場合、特に重要です。

  • 観客の自主性の尊重: [24:21] 観客が予期せぬ選択(例: 恐竜を叩こうとする)をした場合でも、没入感を壊さないようキャラクターが反応するように設計します [24:57]。

  • 操作しない自由: [25:27] 観客が操作しないことを選択した場合も、体験は継続すべきです。Encounter Dinosaursのように、非操作時にはシネマティックな体験にフォールバックしたり、Kung Fu Panda School of Chiのように、[26:33] 反応がなくてもヒントで物語に戻すよう促します。


3. Targoの事例に学ぶ「意図的な没入」

没入型ドキュメンタリースタジオTargoの共同創設者であるVictor Agulhon氏が、『D-Day: The Camera Soldier』の制作から得られた核心を共有しました [27:45]。

(1) 意図的な没入の哲学

[30:33] 「なぜこの物語は没入的である必要があったのか」という問いから始めます。D-Dayでは、没入感を「探索できる場所への時間の変容」に利用しました。観客は80年前の出来事を、同じ場所で体験することができます [30:54]。

(2) 物語を映す没入感

[31:16] 主人公ジェニファーが父親の物語に深く入り込むほど、観客も彼女と一緒に没入します。

  • 3Dビデオ(マジックウィンドウ): 導入部では16:9の3Dビデオを使用し、観客が彼女の世界を覗き込んでいる感覚を与えます [31:41]。

  • フルイマーシブビデオ: 彼女がノルマンディーへ行き記憶に浸る際、フレームが広がり、観客も物語の一部となります [32:01]。

  • インタラクティブ3D空間: 彼女がD-Dayを思い出す瞬間、観客は写真の中にいるような3D空間に転送され、[33:04] 象徴的な瞬間を動ける状態で体験します。

(3) インタラクションのルール:「アテンション>アクション」

[33:52] 観客の行動(アクション)よりも、**観客の注意(アテンション)**のほうが重要であるという信念に基づいています。

  • 物語を妨げない: インタラクションは体験を強化するだけであり、たとえ操作しなくても、物語の重要な要素を見逃すことはありません [34:00]。

  • シンプルな操作: インタラクションはシンプルに保たれ、[34:13] 物語に集中できるようにします(例: 3Dの遺物を自然につかみ、回して見る [34:30])。

  • パーソナルな体験: 観客の部屋をスキャンし、壁にD-Dayの写真や映像を投影することで、[35:33] 観客の環境を物語のキャンバスに変え、非常に個人的な体験を提供します。


4. 空間インターフェースの配置と使いやすさ

3D空間にコンテンツを配置し、使いやすいインターフェースを提供することは、観客を物語に引き込むために不可欠です [39:59]。

(1) 空間配置のベストプラクティス

  • セルフ配置: [41:46] Carise(ヴィンテージカーの教育体験)のように、ウィンドウから小さな3Dモデルを出し、観客が好きな場所にドラッグ&ドロップし、ピンチ操作で実物大に拡大できるなど、配置の主導権を観客に与えます [42:21]。

  • デジタルクラウンの活用: [43:36] デジタルクラウンを長押しすると、ウィンドウ、ボリューム、3Dコンテンツすべてが、視聴者の現在の視線の前(アイライン)に再センタリングされることを念頭に置きます。

  • 物理空間の認識と適応: [45:11] 部屋の「フリースペース」を考慮し、Encounter Dinosaursのように、広い部屋ではポータルを壁に配置し、狭い空間では観客を包み込むようなラップアラウンド体験に自動で適応させます [45:45]。

  • 環境への接地: [46:10] Vision OSの空間認識機能(床、壁、テーブルなど)を利用し、テーブルトップの物語が実際の表面にスナップするなど、コンテンツが現実の一部であるように感じさせます。

(2) 使いやすいインターフェースの構築

  • システムコンポーネントの活用: [47:30] ウィンドウ、ボリューム、ボタン、ホバーエフェクト、プレゼンテーション(メニュー、ポップオーバー、アラート)など、システムUIコンポーネントを最大限に活用します。これにより、一から設計する手間を省き、観客に慣れた操作感を提供します [47:51]。

  • カスタムUIの親しみやすさ: [50:08] D-Dayのようにカスタムメディアプレイヤーが必要な場合でも、システムプレイヤーと類似したデザイン(タップでUI表示、チャプター機能、再生/一時停止コントロール)を採用し、使い慣れた感覚を保ちます。

  • シンプルな設計: [51:17] 複雑なインターフェースはストーリーから注意をそらします。「可能であればシンプルに保つ」ことが、ストーリーテリングの力を最大限に引き出します。


5. 空間オーディオ(Spatial Audio)の力

Vision OSでは、サウンドはデフォルトでオンであり、視覚と同じくらい重要な役割を果たします [51:54]。空間オーディオは、アプリからの音が、表面や物体から反射して聞こえるなど、現実世界と同じように外部化され、観客にリアリティをもたらします [52:13]。

サウンドスケープの設計

  • 現実のキュレーション: [55:06] 現実世界の音(例: マウントフードの自然音)を録音から始めるのは良いですが、[54:44] 現実にはノイズ(例: 大きな排水音)が含まれるため、心地よい、または意図した雰囲気を作り出すためにサウンドを意図的にキュレーションします。

  • 2つの要素の組み合わせ: [55:26]

    1. 空間オーディオソース: 空間の一点に配置される音(鳥、カエルなど)。[56:34] 音量を下げて、音源の位置を遠ざけることで、遠近感を調整します。

    2. アンビエント背景オーディオ: 観客の周囲全体に再生される、環境の全体的な雰囲気(サラウンドミックス) [57:32]。

サウンドによる注意の誘導とリアリティ

  • 緊張感の構築: [59:31] FXのContainment Room(Alien Earth)のように、パチパチという電気音やチェーンの音といった環境音で緊張感を高め、[58:54] 異形生物の「シューッ」という音が次の出来事を暗示します。

  • ストーキング: [01:00:12] エイリアンが環境内を移動する際、そのクリック音やヒス音が空間オーディオで正確に聞こえるため、観客はエイリアンの位置を知ることができ、[01:01:22] スリルを味わいつつも、極度の不安を感じずに済みます。

  • キャラクターの定義: [01:03:53] Encounter Dinosaursでは、キャラクターの足、口、尾にオーディオエミッターを配置し、あらゆる動作に伴う音が空間の特定の場所から聞こえるようにすることで、キャラクターに重みと次元を与えます。


総括:実験と挑戦の時

Vision OS向けのデザインでは、多くの実験の余地がありますが、[01:05:52] 他の媒体やプラットフォームで培った経験を土台に始めることが重要です。

没入感のスペクトルをどのように物語に利用するか、観客はどのようにインタラクトするか、そしてサウンドやその他のツールでコンテンツをいかに豊かにするかを問いかけることで、この新しいプラットフォームで心を揺さぶる体験を生み出すことができるでしょう。


元動画情報:


(この記事は、上記のYouTube動画のトランスクリプトを基に作成・翻訳されたものです。)

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